米中通商交渉は長い道のりの第一歩
米中は10月11日、閣僚級貿易協議で部分的な合意にこぎつけた。会談に先立ち、我々は基本シナリオで、交渉継続の合意、中国が米農産物の購入を拡大、米国が関税引き上げを延期といった若干の進展を予想していた。交渉結果は概ねこの予想に沿っている。S&P500種株価指数は1.1%上昇して11日を終えたものの、発表前に到達した日中の高値は下回った。
今週の要点
今週の要点
1. 貿易摩擦に進展の兆しはあるも、十分ではない
米中両国が11日、閣僚級貿易協議で部分的に暫定合意したことで、緊張緩 和に向かう道筋が見えてきた。中国が最大400億米ドルから500億米ドルの 米農産品を購入する一方、米国は10月15日に予定されていた関税の25% から30%への引き上げを先送りすると表明した。今後「第1段階」合意の詳 細を詰めるため、さらなる交渉が続く見通しだ。しかし、残る問題の多くは未 解決あるいは扱いが未定のままである。12月に予定されている関税引き上 げは延期されず、ファーウェイの禁輸措置緩和も今後、別途協議対象とされ る。知的財産権、技術移転の強要、中国政府による産業補助金に関する規 定も依然として不透明である。したがって、世界経済の見通しを大きく変える ほどの成果は上がらなかったと我々は考えている。世界経済は減速が続き、 潜在成長率を下回っている。我々は、来年の経済成長率は3%と、2009年以 降で最低のペースを予想している。企業利益が予想を下回る余地は依然と して残されており、貿易摩擦をめぐる長引く不透明感から、企業の設備投資 がここから大きく好転する可能性は低い。
要点:我々は株式のアンダーウェイトを継続する。未解決の通商問題が進展 する兆しと、それにより景気指標に改善が見られれば、ポジションの見直しを 検討する。
2. 金に一段高の余地
米国が中国のテクノロジー企業数社をブラックリストに掲載し、中国も報復措 置を講じる考えを示唆したことから、金は先週に入って再び1オンス=1,500 米ドル台に上昇した。ブルームバーグがまとめたデータによると、世界の金 ETFへの資金流入期間はこの10年で最長を記録している。米中貿易交渉の 進展の兆しを受けて足元で金価格は下落したが、最近の上昇基調を下支え する要因は依然健在である。世界経済は減速しており、我々の成長率予想 も3%と、2009年以降で最低水準にある。米連邦準備理事会(FRB)が利下げ を継続する中で、我々は米国の実質金利が(現在の0.18%から2020年3月 には‐0.56%に)低下すると予想しており、貴金属の相対的な魅力を高めてい る。先週の部分的な通商合意が米中間の対立の解消につながるなら、金に 下げ圧力がかかる可能性がある。しかし、当面、貿易問題は先行き不透明 で、ブレグジット(英国のEU離脱)やトランプ大統領の弾劾調査など、その他の 地政学的問題も根強いため、安全資産の魅力は高まっている。
要点:我々は12月末の金価格を1オンス=1,550米ドル、来年第1四半期末では 1,600米ドルと予想している。
3. より安全な未来への投資
20年にわたるエチオピアとエリトリアの紛争終結に尽力したとして、エチオピ アのアビィ・アハメド首相が今年のノーベル平和賞を受賞した。平和賞と時を 同じくするように、我々は先日、持続可能な開発目標の目標16(SDG16)を取 り上げたレポートをリリースした。同レポートでは、SDG16で謳われている「平 和」、「公正」、そして「有効な制度」を投資家が支援し、武器の生産・売買や 人権侵害に関与している企業をポートフォリオから除外する方法について述 べている。我々はまた、投資判断材料にESG情報も加えるインテグレーション 投資手法も取り入れており、これにより、投資家は、バリューチェーンで人権 問題に対応し、透明性を推進し、不正や贈収賄を回避している企業を投資先 として選定することができる。この手法により、ポートフォリオのリスクを軽減 し、我々の中長期の投資テーマである”セキュリティと安全性”で注目してい る業種など、潜在的な成長機会を探ることができる。グリーンボンドからの資 金をSDG16を支援するプロジェクトに割り当てることも可能である。より大きな インパクトを実現するため、高リスク市場の企業に対し、国家機関・制度の強 化を支援するよう促す、エンゲージメント戦略も提案している。
要点:サステナブル投資は、リターンを大幅に犠牲にすることなく、自身の価 値観に合致した投資先を選定することが可能である。
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