押し目買いに備える:下値は限定的
日本株式の投資家にとって、今回の急落局面は銘柄を厳選して買いを入れる好機とみる。配当の質の高い銘柄や、米中貿易協議の第1段階合意の署名後も株価の戻りが遅い企業を推奨する。
- 日本株式の投資家にとって、今回の急落局面は銘柄を厳選して買いを入れる好機とみる。配当の質の高い銘柄や、米中貿易協議の第1段階合意の署名後も株価の戻りが遅い企業を推奨する。
- 新型コロナウイルスが最も大きく企業業績を押し下げるのは今年1-3月期(第1四半期)であり、年後半以降は業績が緩やかに回復し始めるものと予想する。2021年上期は、今年の業績低迷からのベース効果や累積需要の回復を受けて一段と強含むだろう。我々は今年上期の利益予想を今後さらに引き下げる可能性があるが、年後半から来年にかけて利益回復を見込む。
- TOPIXは現在、株価資産倍率(PBR)が1.03倍で取引されていることから、今回の調整局面は底を打った可能性がある。したがって、バリュエーションの点から見て下値は限定的と考える。
新型コロナウイルスの感染が中国国外に拡大したことを受けて、日本を含め世界各国で株式市場が急落した。事態がいつ収束するのかはわからないが、いずれは収束に向かうだろう。この点が米中貿易摩擦が激化して不確実性が高まった2018~2019年当時と大きく異なる点であり、不透明感は2020年後半までには払しょくされると我々が考える理由である。だが、新型コロナウイルスは貿易摩擦を上回る影響を日本の経済や企業利益に及ぼす可能性もある。
新型コロナウイルスの感染が欧州や米国に拡大したことを受けて、世界経済の減速不安が高まった。新たな感染者数がいつ減少に転じるかを正確に予測することはできないが、中国では新たな患者数が減少しており、中国の感染状況が世界の他の地域の「先行指標」となると考えている。また、2020年2月27日付のCIO Alertで述べたように、急回復を可能にする条件が揃いつつあると考える。
企業利益
企業利益
2020年2月25日付の日本株式レポート「日本株のパフォーマンスはなぜアジア株に負けるのか」の中で、2020年3月期の純利益の成長率予想を-9%に引き下げた。新型コロナウイルスの影響が最も色濃く現れるのは2020年第1四半期(1-3月)であり、年後半から緩やかに回復し始めるものと予想する。2021年上期は、比較対象となる今年の水準が低いことによるベース効果と需要増加の開始を受けて一段と強含むだろう。我々は今年上期の利益予想を今後さらに引き下げる可能性があるが、年後半から来年にかけて利益が回復すると見込む(図表3参照)。
買い手と売り手
買い手と売り手
東京オリンピックが予定通り7月24日に開催されるかどうかは大きな問題である。日本企業に対する影響のみならず、日本株売買の約70%を占める海外投資家の投資判断に影響を及ぼしうるからだ。オリンピック開催に絡む先行き不透明性から、日本株式の回復が他の主要市場よりも遅れるかもしれない。
だが、日本株式には他国に比べて2つの優位性がある。1つ目は、日本企業のバランスシートが強固で(負債/資本比率が低い)、現預金を豊富に保有し、財務状態が健全であることだ(のれんの計上額が非常に少ない)。図表4からはTOPIXのPBRが1倍に近づくと株価が反発することが見て取れる(1倍を下回るとその傾向はさらに強まる)。純資産(株主資本)が堅調に伸びていることを踏まえると、日本株式の下値は限定的であり、大半の悪材料はすでに織り込み済みであると考える。
2つ目は、日銀が継続しているETF買い入れプログラムと日本企業による自社株買いが、海外投資家の売り圧力を一部吸収する公算が大きいことである。2019年における日銀のETF購入額が予定額の6兆円に対して4兆円にとどまったのは、2019年後半に株式市場が上昇したからだとみられる。日銀は通常、今回の新型コロナウイルスの流行など突発的災害で相場が下落した局面でETFの購入を増やす。また、日本企業も新型コロナウイルスによる影響を抑えるため、株価急落を機に自社株に動く可能性がある。自社株買いは、株主資本利益率(ROE)向上という公約実現に取り組む企業側の姿勢を示す指標となるだろう。
株式バリュエーション
株式バリュエーション
企業利益は毎期大きく変動し不確実性が高いため、現在の株式バリュエーションを測る基準には適していない。市場が底を打ったかどうかを判断するには日本企業のバランスシート価値(純資産価値)を見るとよい。前述の通り、日本企業のバランスシートは相対的に強固で信頼できるため、現時点ではPBRが良い指標となるだろう。
過去10年間を振り返ると、2011年の東日本大震災の時期を除き、PBRが底を打つと市場も追随した。原油価格が急落し、中国の理財商品への規制強化をめぐる懸念が再燃した2016年には、TOPIXはPBRが1倍をつけた直後、再び上昇に転じ始めた。PBR1倍とは、株価が、企業の1株当たりの会計上の株主資本に等しいことを意味する。同様に、米中貿易紛争が過熱した時期も、市場のPBRは1.04倍を割り込みこの間の最低をつけたが、その後上昇した。現在、TOPIXのPBRは1.03倍とおそらく市場の底値を示しており、バリュエーションから見れば下値は限定的と考える。
図表4は、足元の株価が利益トレンド、すなわち12カ月先予想1株当たり利益(EPS)と概ね一致していることを示している。この利益予想は回復する前に一旦低下する可能性があるが、新型コロナウイルスが収束した後、日本企業の利益は現在の水準に回帰するものとみている。
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