何が起きたか?

世界の株式市場は2月28日も急落し、週間ベースの下げ幅は2008年9月以降で最大となった。S&P500種株価指数は0.82%下落した後、引けにかけて値を戻したが、一週間の下落率は11.5%となった。ユーロ・ストックス600指数は3.5%下落して、一週間で12.25%値を下げた。新興国株式市場は6.4%の下落で収まった。グローバル株式は直近の高値から11.6%下落した。米10年国債は引き続き安全資産に逃避する動きから値上がりし、過去最低の1.166%にまで低下した。金価格は3.6%下落した。これは、投資家が資金調達のために流動性の高い資産クラスを売却しているためだろう。

市場のパフォーマンスは、新型コロナウイルス(COVID-19)の感染者の世界的な増加、そしてそれによる経済成長への影響を反映している。1日の間に複数の国で感染者数が増加した。イタリアで28日に確認された新規感染者数は、本レポート執筆時点で233人となり、前日よりも26%増加した。韓国では571人の新規感染者が確認され、1日で24%の増加となった。感染拡大は広範囲に渡り、59の国と地域が感染確認事例を報告している。世界保健機関(WHO)は28日、世界的な危険性評価を「高い」から「非常に高い」に引き上げている。

次に何が起きるか?

一週間の間に、株価と債券利回りは、世界的なリセッション(景気後退)のリスクを織り込みに行った。S&P500種株価指数は過去最高値から約13%下落したが、これは一般的な弱気相場の局面で見られる平均的な下落幅の半分ほどである。つまり、投資家が今年世界的にリセッション入りする確率を約50%として織り込んでいることを示唆している。現時点で、リセッション入りは依然としてリスクシナリオであり、我々の基本シナリオではない。我々は株式相場と金利は主に次の4つの要因に左右されると予想する。

1 つ目は、最も重要な要因で、世界的な新規感染者数の増加率だ。特に、増加率が大幅に減少している中国以外での数字が意味を持つ。少なくとも2~3週間、新規感染者数は増えるだろうが、増加率が低下すれば、世界的な感染拡大が3月下旬か4月上旬までに落ち着くと考えられる。各国は感染拡大を抑制するための施策を講じている。日本は1,300万人余りの小中高生および特別支援学校の生徒を対象に、少なくとも4月初めの春休み期間まで休校を要請すると発表した。ドイツは1,000人超の強制隔離を発表。米カリフォルニア州のニューサム知事は27日、8,400人の健康状態を経過観察していると発表した。ウイルスの潜伏期間が2週間であることから、イタリアと韓国で感染者数が急増してからの2週間で、新規感染者数の伸びが減速することが重要な指針になる。

2 つ目は、世界経済への影響がより明白になってきているが、感染者数が4月初旬までに減少し始めれば、世界的にリセッション入りする可能性は依然として低いということだ。中国の経済活動は緩やかに回復しており、1日当たりの石炭消費や不動産取引などの指数は、2019年の水準のおよそ60%程度である。サプライチェーンの混乱は依然として続いており、これは他国のサプライチェーンの川下に影響を及ぼすだろう。米国の経済活動はこれまでのところ底堅いが、コロナウイルス感染拡大による世界経済成長への影響は2週間前に出した当初の予想よりも長く、第2四半期にかけても残る可能性が高い。

3 つ目は、経済的な混乱に対処するための積極的な政策対応がリセッションリスクを減らし、2020年後半の力強い成長を確実にするという点だ。影響を受けたアジア諸国の政策当局は、経済・金融への影響が手に負えない状態にならないように、金融、財政、規制の側面から具体的な政策措置を講じている。中国、インドネシア、マレーシア、フィリピン、タイなどの中央銀行は、利下げもしくは金融システムへの流動性注入を行った。財政支援の規模も大きく、中国、韓国、香港の2020年の財政赤字(対GDP比)は、2019年の水準よりもそれぞれ0.7%、1.3%、3.5%拡大する見通しだ。米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長は28日の声明で「FRBは状況を注視している。(中略)経済を支えるために、必要に応じて政策ツールを使い、適切に行動する」と述べた。市場が年内に約4回の利下げを織り込む中、この声明は、FRBが早ければ3月に利下げを実施する可能性が高まっていることを示している。

4 つ目は、リスク資産のバリュエーションが修正局面を経て改善され、魅力的なリスク調整後リターンが期待できる水準になってきている点だ。このことは、システマティックなリスク資産の売却や投資家の資金調達のためのリスク資産の売却によって急落していた相場を落ち着かせることにつながるだろう。

現在、どこに価値を見出すことができるか?

短期・長期のどちらの投資家も、現在の市場の修正局面をポートフォリオ見直しの機会と捉えることができる。これまでのレポートでも説明しているように、5つの投資機会を以下で確認する。

1.ユーロ圏株式よりも新興国株式を推奨する

中国での感染拡大封じ込め策が成功している事実がより明らかになっているが(過去1週間で湖北省以外の中国で確認された新たな感染者数はわずか391件と報道)、ウイルス感染が欧州と米国で拡大しているとの不安が高まった結果、新興国株式のパフォーマンスはここ数日、先進国株式を上回り始めた。例えば、過去1週間で、新興国株式のパフォーマンスはS&P500種株価指数を5.75%上回っている。我々はこのトレンドが続くと予想する。新興国株式をオーバーウェイトし、その中でも特に中国市場を勧める。米国よりも、ウイルス感染による影響が懸念されるユーロ圏への警戒を強める。

2. 売られ過ぎのセクターまたは銘柄を買う

現時点で売られ過ぎとみられるセクターには、住宅関連指標が堅調であるにもかかわらず、この5営業日で11%下落した米国の一般消費財セクターなどがある。また、景気変動の影響を受けにくいディフェンシブ性を発揮し、自宅での時間が増える中でむしろ恩恵を受ける可能性のあるデジタルコンテンツ企業など、米国の通信サービスセクターも推奨する。さらに、堅調なファンダメンタルズと比較して、ここ数日売られ過ぎたと考える米国銘柄も複数特定した。

加えて、中国情勢が安定し、全体的な状況が鎮静化するにともない恩恵を受ける可能性のある欧州銘柄にも注目している。中国が感染拡大の抑制に比較的成功していることなどを踏まえ、キャッシュフローが堅調かつファンダメンタルズが良好で、新興国市場へのエクスポージャーを持つ優良銘柄を推奨する。

3. 長期投資の有望銘柄を買う

この株価下落局面から、長期投資テーマに割安水準で投資する機会を捉えることもできる。新型コロナウイルスの感染拡大を機に、来る「変革の10年」で市場をけん引する主な長期トレンドが加速する可能性がある。例えば、デジタルトランスフォーメーションに注力する銘柄には大きな上昇余地があると見ている。新型コロナウイルスの感染拡大によって、リモート勤務(遠隔地勤務)への切り替えに弾みがつき、中国では感染拡大の期間中にオンライン・ビジネスが急拡大している。遺伝子技術は、ウイルスがいかに拡散するかを科学的に特定するのに有益なツールだが、新型コロナウイルスによって、この分野が格段の進歩を遂げていることが明らかになった。また、消費者の好みの変化に伴い、持続可能性への取り組みが足りない企業に対する目が厳しくなる可能性が高い。従って、投資家は優れた環境、社会、ガバナンス(ESG)基準を採用している新興国の企業を検討することもできるだろう。

4. 利回りを向上させ、高いボラティリティを生かす

ここ数日の株式市場の下落に加え、米10年国債利回りの低下は、世界の市場で起きている最も注目に値する動きの1つだ。同利回りは、28日金曜日に記録した過去最低水準の1.2%をわずかに上回る水準にあり、市場はFRBが3月の会合で利下げを実施する確率を65%と織り込んでいる。このような低利回り環境においては、配当銘柄や、投資適格債とハイイールド債の中間に位置するクロスオーバーの欧州債券など、ポートフォリオ内の利回りを向上させる戦略を検討すると良い。こうしたボラティリティ(相場変動)の上昇時は、投資家がボラティリティを利用して利益を得る機会でもある。

5. ウイルスに対峙できるポートフォリオにする

資産クラス・地域分散ができていないポートフォリオは今後数週間、十分に分散されているポートフォリオよりも大きな変動に直面しそうだ。危機的状況では、株式、債券、代替資産で構成されたポートフォリオの有効性が明らかになっている。債券の強いパフォーマンスが、株価下落による影響を和らげるからだ。我々は、状況が一段と悪化した場合のヘッジとして、金を引き続き推奨する。

ここ一週間の相場の急落に懸念を抱くのは当然の反応だ。パンデミック(世界的感染拡大)抑制を目的とした積極的な施策の結果、ウイルス感染の拡大が今後1カ月か2カ月がピークになると見るのが妥当だろう。コロナウイルス感染拡大による経済への悪影響を緩和するための政策対応により、世界経済への影響は大きいながらも景気後退に陥るほどにはならないだろう。よって、最終的にリスク資産にはポジティブとなるだろうが、回復への道筋がよりはっきりするまで、短期的に相場変動は大きな状況が続きそうだ。

上記の投資戦略を実行するための詳細については、担当クライアント・アドバイザーと検討することを勧める。

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