何が起きたか?

12 日のS&P500 種株価指数は2.1%下落し、7 日につけた過去最高値からの下落幅を広げた。インフレ率の上昇を受けて米連邦準備理事会(FRB)が景気刺激策を縮小するのではとの懸念が市場の下落要因となった。12 日発表の4 月の米消費者物価指数は、コンセンサス予想の前年同月比3.6%を上回る4.2%の上昇となった。3 月の上昇率は2.6%だった。物価上昇見通しの市場への織り込みも進み、期待インフレ率を示すブレイクイーブン・インフレ率は年初の2%から足元では2.56%と、2013 年以来の水準近辺まで上昇している。

セクターの動きもインフレと利回り上昇への懸念を反映している。「リフレ」の恩恵を受けるセクターやバリュー株はハイテク・セクターとグロース株を広くアウトパフォームし、米国のエネルギー株は2%、金融株は1%、それぞれ市場をアウトパフォームした。一方、グロース株に分類されるハイテク銘柄中心のナスダック総合指数は、2.7%下落した。こうした米国市場の動きに先駆けて、12 日の世界の各市場は、欧州株式が小幅に上昇した一方、日本を除くアジアの株式は1.6%下落するなど、強弱まちまちのパフォーマンスとなっていた。

インフレに関する懸念は、先週7 日に発表された米国の雇用統計を火種に積み上がっていた。平均時給がコンセンサス予想の横ばいに対して0.7%の上昇となるなど、労働力不足と賃金上昇が示された。また、4 月の米供給管理協会(ISM)の仕入価格指数が製造業、サービス業ともに2008 年以降の最高を記録したほか、中国の4 月の工場渡し価格が前年同月比6.8%と3 年ぶりの高水準に達するなど、他の指標もインフレへの懸念を示唆する内容だった。銅、木材、トウモロコシなどのコモディティ価格も数年ぶりの高値、あるいは過去最高値を記録している。

コロナ危機からの回復が加速する中、インフレ率の上昇に引き続き注目が集まりそうだ。インフレ懸念は市場のボラティリティ(変動率)を増大すると予想するが、我々はリフレを捉えるポジションを継続する方針だ。また、ボラティリティによる株価の一時的な下落局面を利用し、構造的な勝ち組銘柄を割安な株価で組み入れる機会としてゆく。

今後の見通し

市場のボラティリティを引き起こす要因は様々あり、インフレ懸念もその1 つだ。よって、足元の市場の下落は想定外の動きではない。しかし同時に、それが強気相場の終わりを示すものではないと我々は見ている。

我々は、最近の市場の下落を引き起こしたインフレ率の上昇は、短期で終息する可能性が高いと考える。このところのインフレ率の上昇は、前年の水準が低かったことによるベース効果によるものだと考えるためだ。つまり、パンデミックのために不自然に下がっていたコモディティ価格の反発や、経済活動が再開される中でホテル、航空、中古車など一部の分野の需要が急増したことを反映したもので、この現象はいずれ解消されるとみている。原材料価格は一段と上昇するかもしれないが、コモディティ価格の上昇はおおむね一巡したと見ている。また、労働力の供給がひっ迫していることも逆風となっているが、学校が完全に再開され、ワクチン接種がさらに普及し、追加の失業給付の特例措置が期限を迎えれば、今後数カ月でひっ迫は和らぐと考える。

各主要中央銀行も、物価上昇は一時的なものにすぎないとして、金融政策の引き締めを行わない方針を示している。米FRBは、11 日にブレイナードFRB 理事が、コロナ危機後の経済の歪みがおのずと解消に向かう中、政策当局は忍耐強くあるべきだと発言するなど、この方針を強調している。

投資家の取れる行動は

リフレーションへの投資。我々はここ数カ月、過去にインフレ率や利回りの上昇局面で恩恵を受けてきたエネルギーや金融などのセクターを中心に、リフレに向けたポジションを取ることを推奨してきた。ここ数日間これらセクターがアウトパフォームしているが、これは市場が我々の推奨の通りに展開していることを示している。インフレを巡る先行き不透明感が残り、経済活動の再開が順調に進む中、リフレ・トレードが今後一段と活発化する余地があると考える。具体的には小型株、金融株、エネルギー株、コモディティ、新興国市場等を推奨する。

構造的な成長を捉える。利回りの上昇でグロース株は弱含んでいるが、長期投資家にとっては割安な株価水準で構造的な勝ち組銘柄に投資する機会になるものと考える。超大型株の上昇余地は当面限られていると見るが、我々は引き続き5Gやフィンテック、グリーンテック、ヘルステックといったトレンドに関連する企業を推奨する。

ボラティリティを活かした投資とプロテクション。インフレ率の上昇は一時的なものであり、株価の上昇は一段と進む余地があるとの我々の見解に基づき、投資家にはボラティリティの高い局面を利用して長期的な観点からポジションを構築することを勧める。例えば、ドルコスト平均法などにより毎月定額で投資を行い、市場がさらに下落した場合はさらにポジションを積み増すことも可能である。

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