回復へのロードマップ
米国の大統領選挙、財政刺激策をめぐる与野党交渉の行き詰まり、新型コロナ新規感染者の増大で、目先の経済見通しと市場見通しの不透明感が高まっている。大統領選挙後には、新たな財政刺激策が講じられ、ワクチンの治験が成功すれば、中期的な見通しは改善すると思われる。投資家には目先の不確定要因に惑わされず、長期ポジションを構築することを勧める。相場の反発は広がり、景気敏感セクターにも及ぶだろう。
先月のレターで私は、米国大統領選挙を控えて今後は相場変動が大きくなると予想されるが、投資家はこのタイミングを捉えて、中期的な株価上昇に備えたポジションを取ることが望ましいと書いた。我々の見解は現在も変わっておらず、今後もこの方針を追求していく。中国では景気回復が引き続き順調に進んでいるが、米国の政治状況と欧州での新型コロナの感染者数増大で世界経済と市場の不透明感が増した。
状況がもう少し確実になるまで資金投下を待ちたいと思う投資家がいても不思議ではない。だが、目先の不確定要因に惑わされることなく、長期のポジション構築を始めた方がよいと考える。米国大統領選挙の結果がどうであれ、選挙後には新たな景気刺激策が講じられ、経済成長を押し上げるだろう。ワクチン候補の第3相臨床試験が成功するか、新型コロナウイルス感染症の効果的な治療法が承認された場合にも、中期的な見通しは改善すると考える。そして、世界各国の中央銀行が金利は当面ゼロ近辺を推移すると表明していることも踏まえると、長期にわたって資産を守り増やしたい投資家にとって唯一の選択肢は、投資を続けることと考える。
我々は資産価格が上昇すると予想しているが、多くの投資家が相場変動を無視できないことも理解できる。下落リスクがあるからこそ、堅固な投資計画に基づく規律の取れた分散投資が一段と重要である。相場変動は投資機会にもなり得ることを忘れてはならない。戦術的ポジションを取る、ポートフォリオの利回り改善を図る、あるいは規則的な投資戦略を実施するといった対応が考えられる。
全体として、我々は株式を推奨する。なかでも景気敏感セクターが次の相場反発を牽引すると考えている。具体的には英国株式、米国中型株、ユーロ圏の中小型株などが挙げられる。高利回りを追求する投資家向けには、クレジット市場に魅力的な投資機会も見出せる。
今投資する理由
今投資する理由
1.米国大統領選挙後に新たな景気刺激策が講じられる
VIX先物カーブの形状は、米国の選挙に伴う相場変動が今年は通例よりも長引く可能性を示している。不在者投票での投票数が通常より増えていることに加え、トランプ大統領が選挙結果に異議を唱える可能性があるため、11月3日(投票日)以降も政治情勢の不透明感が払拭されない場合に備えておく必要があるだろう。前回、米大統領選挙の結果に異議が唱えられたのは2000年のジョージ・W・ブッシュ氏対アル・ゴア氏の時で、選挙日からゴア氏が敗北を認めた12月13日までの間にS&P500種株価指数は5%近く下落した。現時点では、選挙前に追加景気刺激策の与野党協議が合意に至らない可能性があり、この点での不透明感の長期化も米国経済の重石となるかもしれない。
だが世論調査でバイデン氏がリードしているため、権力委譲をめぐる混乱の恐れは低下している。さらに、民主党が過半数を握る米下院では2兆2,000億米ドルの景気刺激策がすでに通過しており、共和党の反対さえ乗り越えれば、景気刺激策は実施されるだろう。株式市場と米10年国債利回りがいずれも上昇しているのは、この2つの要因が寄与している可能性が高い。民主党が圧勝(大統領、上下両院ともに民主党が勝利する)すると、中期的には増税と規制強化につながりそうだが、短期的には追加財政刺激策によって高成長とインフレ上昇が期待されるだろう。名目成長率が好調であれば、米連邦準備理事会(FRB)はマイナス金利を余儀なくされるリスクは低下しよう。
民主党圧勝の次に可能性が高いのは、大統領職の政党と上院下院の多数派政党が異なる状況だ。このシナリオでは、政策が行き詰まるリスクがあり、そうなると相場変動がさらに大きくなるかもしれない。だがこのシナリオでも、何らかの刺激策が議会を通過すると考える。上院多数党(共和党)院内総務はこの可能性を否定しておらず、トランプ大統領は現在、大型の景気刺激策に理解を示している。
最後に、米国政治の二極化で、選挙結果が市場にとって大きなリスクのように「感じられる」ものの、過去の事例を見ると、市場は選挙結果の影響を受けていない点を指摘しておきたい。1932年以降、S&P500種株価指数は投票日前の1カ月は若干のプラスとなるのが通例となっている(例外は2008年)。そして選挙が終わるとある程度の相場変動はあるものの、その後は、民主党、共和党どちらが勝利した場合でもプラスとなっている。
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