• 日経平均株価は3月19日の安値から6月10日までに38%上昇し、この間の上昇率は世界の主要市場の中でもトップクラスを記録した。
  • こうした相場展開を切り抜けるうえで、我々は1)経済再開後に強さを増す業界大手、2)グロース株からバリュー株へのシフト、3)業界再編、および4)ハイテク株には慎重、という4つの戦略に注目する。
  • 我々は全体としては日本株に中立である。株式投資家には再び投資チャンスが訪れる押し目を待つことを推奨する。

我々の見解

日経平均株価は3月19日につけた安値から6月10日までに38%上昇し、この間の上昇率は世界の主要市場の中でもトップクラスを記録した。だが、5月29日付日本株式レポート「今後6カ月の上昇余地は限定的」で述べたように、それ以降はボックス圏で推移している。日経平均株価の株価収益率(PER)は現在、我々が妥当水準と予想するレンジの上限で推移しており、冴えない企業業績見通しを踏まえると、ここから一段の上値余地は小さいとみている(図表1参照)。また、安倍内閣の支持率急落や米中関係の緊張の高まりも逆風になる可能性がある。

こうした相場展開を切り抜け足元の基調をとらえるうえで、我々は、1)経済再開後に強さを増す業界大手、2)グロース株からバリュー株へのシフト、3)業界再編の可能性、および4)ハイテク株には慎重、という4つの戦略に注目する。また、こうした分野における最近の動向を掘り下げることで、海外投資家の日本株に対する見方や、今後6カ月の上値余地についても見極めることができると考える。

1つ目に、新型コロナウイルスの感染が拡大し始めた当初、投資家による業界大手を選好する動きが鮮明化した。我々もまた強い企業がさらに強くなると考える。国内の感染拡大が収束した後でもこの見方は妥当であると考え、とりわけ過去20年で最も深刻な危機に直面している小売業ではこの傾向が際立つとみている。

2つ目に、グロース株とバリュー株の株価パフォーマンス格差が注目を集めている。過去半年間、グロース株はバリュー株(大半は景気循環株)をアウトパフォームしてきた結果(図表2参照)、両者のパフォーマンス格差は約10年ぶりの水準に拡大した。この水準ではグロース株への利益成長期待とバリュエーションが高すぎるため、バリュー株へ切り替えるタイミングであると考えている。こうした理由から、足元の株価が1株当たり純資産額を大きく下回り、予想配当利回りが3%を超える自動車銘柄を推奨する。

3つ目に、4月から5月の緊急事態宣言の発動中に、大部分の日本企業は深刻な打撃を受けた。政府は様々な企業支援を繰り出したが、実店舗への依存度が高いアパレルメーカー、小売り、ホテルなどのセクターでは今後、業界再編が進むとみている。こうした業種では一部大手が事業再編(スピンオフや合併整理)を進めると予想される。こうした構造改革により企業の収益力は改善され、業界内での競争は低下するだろう。こうした点から、上記業種の業界再編にも注視している。

4つ目に、日本のみならずその他主要市場でも、ハイテク企業(情報通信技術やインターネット・サービス・プロバイダーが中心)がそれ以外のセクター(特に景気敏感セクター)をアウトパフォームしている(図表3参照)。これら日本ハイテク企業の足元の株価水準はTOPIX500構成銘柄の平均を大きく上回っており、12カ月先予想1株当たり利益(EPS)に基づくハイテクセクターのPERは22倍超(TOPIXは14倍)、株価資産倍率(PBR)は2.5倍(TOPIXは1.2倍)と20年ぶりの水準にまで上昇している。たしかに新型コロナウイルスの感染拡大は情報通信企業の利益を押し上げたが、それが必ずしも長期的な利益拡大につながるわけではない。今後数年間は引き続き競争が激しく、結果として投資家の楽観的な利益期待に届かない可能性もある。以上を踏まえ、我々は日本のハイテクセクターに慎重な見方をしている。

我々は全体としては日本株に中立である。日本経済は景気循環セクターによるところが大きく、したがって企業業績の回復には時間がかかるだろう。株式投資家には押し目を待つこと推奨する。

House View レポートの紹介


居林通

UBS証券株式会社 ウェルス・マネジメント本部チーフ・インベストメント・オフィス
ジャパン・エクイティリサーチ・ヘッド


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